Akiya Stories

「猫の足あと」代表・岸田久惠さんと考える、アキヤラボのこれから

NPO法人「猫の足あと」 岸田久惠さん

 西東京市で、地域の子どもたちへの無料の学習支援、若者への住居支援などを行っているNPO法人「猫の足あと」。その代表を務めるのが、今回お話を伺う岸田久惠さんです。2011年に自宅を使った学び塾を家族4人でスタート。2016年に教師を定年退職すると、自宅近くに「猫の足あとハウス」を開設しました。2019年には、新町の空き家を借りて「猫の足あと第2ハウス」をオープン。若者の住居支援・自立支援にますます力を入れています。そんな岸田さんの活動に、以前から尊敬の念を抱いていたのがアキヤラボの澤幡。今回はその澤幡が「猫の足あとハウス」に伺い、岸田さんの活動と空き家活用法、さらには今後のアキヤラボのあり方について語り合いました。

エリア
西武新宿線「田無」駅
業種・業態
若者の住居支援・自立支援

掲載日:2020.01.25

思いついたらやらずにはいられない

澤幡 私が岸田さんの活動を知ったのが、アキヤラボ主催の「西東京の空き家からまちづくりを考えるシンポジウム」だったんですけど、ものすごく感動したんですね。というのも、岸田さんの活動の対象となるのが「家族の支援が受けられない若者」。私も幼稚園の時に父を亡くしているので、母子家庭の時期がありました。幸い塾には行かせてもらえましたが、母は相当苦労したと思うんです。岸田さんはそういう支援活動に私財を投じて、ご自身の想いを実現されているところが本当に素晴らしいなと。

岸田 私的には、一番やりたいことにお金を全部使っちゃった、ということなんです(笑)。「うちのすぐ近くに家を買って、支援の場が作れたらいいな」という夢物語を夫にしつこく語っていたら、「買えるもんなら買ってみれば」と言われて(笑)。そこで自宅近くに土地を買って、「猫の足あとハウス」を作りました。1階が教室で、2階は賃貸の部屋が5つ。借金してまではできないですけど、自分の退職金と、夫の協力のおかげで、なんとか好きなように作れたのはよかったです。

澤幡 それが本当にすごいなと思って。

岸田 いついたらやりたくてしょうがなくなるタイプなんですよ。「やってから考える」みたいな(笑)。最初は、「児童養護施設を出た子の次の居場所」としてイメージしていたんですけど、始めてみると、他にも支援が必要な人たちの話をいろいろ聞くようになって。高校進学まで応援しても、その後が続かないとか、一度施設を退所した人が、後にホームレスになっちゃうとか。そういう人も応援しようと思ったら、住居支援も必要かなとか。それが膨らんで、今の形になったんですよね。

猫の足跡ハウス前で岸田さんと

澤幡 小学校の教師をされていた時から、そういう問題意識はあったんですか。

岸田 そうですね。教師としてやれることはやったっていう気持ちはありますけど、子ども達の生活全体をずっと支援するというわけにはいかない。だから退職後も何らかの形で子ども達に関わりたい、という気持ちはずっとあって。そうすると、地域がその場になるんじゃないかなとは思っていました。

澤幡 思い続けるだけじゃなく、岸田さんのように「踏み出す」っていうところが、僕も含めて大多数の人はできないんですよね。

岸田 以前ある集まりに呼ばれて、新しい活動を始めた人達と話をしたことがあったんです。最終的にみんなで一致したのは、「これを始めたらどういうリスクがあるだろう?」とか、問題を先に考える人はやれないよね、っていうこと。「とにかくやってみよう」とか「やってみたい」で始めて、何かあった時に考えればいいやっていう。だから課題ばかり口にする人は多分やらないよね、っていうのは一致して。

澤幡 今、グサッときましたね(笑)。

岸田 リスク管理っていうのは世の中に必要なんだけど、それを考えすぎちゃう人はこんな形ではやらないだろうなって。逆にそういう危なっかしいところがあるから、みんなに応援してもらえるのかな。きちんと企画通りにやっている人は、「別に応援しなくていいや」ってなっちゃうかもしれないですよね。

対談の様子

就学や就労を目指さないと決めた

澤幡 岸田さんの活動には、就労支援とか就学支援という意図もあるんでしょうか。

岸田 いや、単に若者の自立支援というか。私は支援をしている中で、「就労とか就学とかを目指さない」と決めたんです。というのも、政府が進めている若者の自立支援は、就労とか就学によって「税金を払う人を作る」みたいになっているんですよね。だから税金が入ってくるところは全て成果を求められる。でも、就労ってそんなに簡単じゃないっていうのが、若者たちと関わっていてすごくよくわかって。ブラックなところに勤めて結局体を壊したりとか、人間関係でうまくいかない人もいるし、病気とか精神疾患があってフルで働けないとか、そういう若者がいっぱいいるから。「就業したから自立支援は終わり」とか、「とにかく働けるようになろうね」みたいな励まし方って、全然違うなっていうのは実感してきたんですよね。

澤幡 なるほど。

岸田 いや、単に若者の自立支援というか。私は支援をしている中で、「就労とか就学とかを目指さない」と決めたんです。というのも、政府が進めている若者の自立支援は、就労とか就学によって「税金を払う人を作る」みたいになっているんですよね。だから税金が入ってくるところは全て成果を求められる。でも、就労ってそんなに簡単じゃないっていうのが、若者たちと関わっていてすごくよくわかって。ブラックなところに勤めて結局体を壊したりとか、人間関係でうまくいかない人もいるし、病気とか精神疾患があってフルで働けないとか、そういう若者がいっぱいいるから。「就業したから自立支援は終わり」とか、「とにかく働けるようになろうね」みたいな励まし方って、全然違うなっていうのは実感してきたんですよね。

お話しをする岸田さん

大家さんと想いを共有することが大事

澤幡 2019年からは、男子のためのシェアハウス「猫の足あと第2ハウス」(以下「第2ハウス」)を新町でスタートされましたよね。「猫の足あとハウス」の入居希望が絶えず、若者の住居を増やす方法を模索されていた時に、一軒家を格安で借りることができたそうで。なぜ大家さんは安く貸してくれたんでしょうか?

岸田 第2ハウスは、築46年の古い住宅ということもあって、なかなか入居者が決まらなかったそうです。でも固定資産税はかかるし、壊して立て直すにも資金がかかる。そこでリフォームしたそうなんですけど、それでも入居がなくて悩んでいらした。そこで一度お会いして、私の活動をお話していく中で、それを応援するっていう意味も込めて、今の金額でいいですっていう話になったんです。

澤幡 なるほど。ただ大家さんの立場からすると、安く住宅を貸すというのは結構勇気がいることだと思うんです。金銭面だけじゃなく、使われ方なども含めて気になるでしょうし。そのへんを後押しする要素が、岸田さんの活動の中にあったんでしょうね。

岸田 私の場合は、「猫の足あと」として借りるっていうことが、貸主さんにとっては安心感につながったんだと思うんです。

猫のあしあと2ハウスの看板

澤幡 個人ではなくて、NPO法人に貸しているっていう。

岸田 何か問題があった時に、きちんとNPO団体が間に入って解決してくれるという安心感ですね。……あとはやっぱり、大家さんの想いだと思います。私に貸してくれる時に、「何か人のためになることをやりたいという想いがあるんです」って。「自分にできることはあまりないけれど、こうして安くお貸しするだけでも、お役に立てるなら」と言ってくださって。だから結果的に、貸主さんのボランティア精神をくすぐる形にもなったのかな。

人と人とをつなぐアキヤラボの役割

澤幡 アキヤラボ的には、まさにそういう想いを持った大家さんたちと、空き家を使って社会の為になることがしたい方々との、マッチング的な役割を担いたいと思っているんです。

岸田 そこですよね。貸す人と借りる人の間に入って調整したり、そういう情報を持っていたりする存在って、すごく大事だと思うんです。空き家を貸す側の人も結構困っていて、そのまま空き家にし続けるよりは、多少家賃を下げても、社会のために役立てて欲しいっていう人もいる。でも、それをどうやってつないでいくか。

澤幡 そこで今回のように、岸田さんのような先駆者の事例を紹介することで、アキヤラボに気軽にご相談いただけるようになればいいなと。やっぱり具体的なモデルがあると、イメージしやすいと思うんです。

岸田 例えばね、知り合いに「二世帯住宅を作ったけれど、住むはずだった息子夫婦が来なくて空いたままなんだよね」っていう家があって。二世帯住宅なんて、お互いに迷惑をかけなくて、貸すのにぴったりじゃないですか。「話し相手になってくれる若い人がきてくれたら嬉しい」っていう、一人暮らし高齢者の方もいらっしゃるでしょうし。少し前に話題になった『大家さんと僕』(新潮社)みたいな関係もあるし。いろんな需要があると思うので、そこをうまく紹介できるといいんでしょうね。

澤幡 やっぱり貸し手、借り手の双方に多少の不安はあるでしょうから、アキヤラボがその不安を解消する役割を担えればと思っているんですよね。例えば「澤幡の知り合いなら大丈夫かな」とか、「岸田さんのご紹介なら安心」とか。そういう期待感もあって、アキヤラボの活動は今後も続けていきたいです。私は岸田さんほどの行動力はないんですが、みんなにお尻を叩かれながらですね(笑)、今いろいろ準備をしているところです。簡単なことではないんですけど、希望には絶対なると思うんですよね。

岸田 アキヤラボのお話を聞いた時に、これを必要としている人はたくさんいる気がしたんです。私も期待しています。

澤幡 ありがとうございます。岸田さんにも見守っていただきながら、熱を持って取り組んでいきたいと思います。

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