Akiya Stories

駄菓子屋コミュニティは「人と人」―まちの最小単位

駄菓子屋ヤギサワベース 中村晋也さん

 西武柳沢駅から西へ徒歩3分、柳沢北口商店街の端っこにある「駄菓子屋ヤギサワベース」。店主の中村晋也さんと、女将として店に立つ奥さんの麻美さんが、二人で切り盛りしている駄菓子屋兼デザイン事務所です。ガラス張りのカフェのような入口に子ども用自転車がずらりと並んでいます。小さな駄菓子屋から生まれる文化と地域コミュニティのヒミツに迫ります。

エリア
西武新宿線「西武柳沢」駅
業種・業態
駄菓子屋兼デザイン事務所

掲載日:2020.01.25

「この街に店を出したい!」

澤幡 中村さんは、「将来、駄菓子屋をできたらな」と思っていたそうですが、あっという間に夢を実現して、3年後には広い物件に引っ越しでしたね。
僕にとって西東京市での出会いはショッキングでした。「繋がり力」という出会いを活かしていくアキヤラボですが、デザイナーと駄菓子屋は結び付かないと思ったけど、大人も来ていますね。それでデザインの仕事もできているという。
中村さんが持っている繋がり力をもっと引き寄せているのが駄菓子屋という場所なんですね

中村 僕はグラフィック・デザイナーとして都心に通勤していたんですが、人がたくさんいるところとか、電車で通勤がいやで(笑)。都心にある仕事まで自転車やランニングで通勤していました。
そもそも地域に目を向けたきっかけは、中学校のおやじの会なんです。自分が暮らす街に、色々な人が仕事の垣根なく協力して地域の子ども達に関わる姿を見て「デザインの仕事をしながら駄菓子屋で子どもたちと話したりできたら、いいなぁ」と思ったんですよね。通勤時間にいつもお店がしまっていて、その何もなさがお店を出すのにいい場所だとも思っていました。「定年後に駄菓子屋を」とずっと先の青写真を描いていた数年前、地元である柳盛会柳沢北口商店街の祭神輿に出会い感激し、「御神輿担ぎたい!この街いいな。この商店街にお店出したい!」と動きはじめました。

「自分の居場所」から「子供たちのもの」に

澤幡 駄菓子屋としては約6坪でしたっけ。

中村 でも、いざ開店してみると、打合せや仕事の追い込みなど「大人の事情」で店を空けられない日が予想以上に増えました。外から「なんだ。今日休みかー」って声が聞こえてくるんです。自分のものというより、地域の人のものになったんだということをひしひしと感じました。
それで、開店後約1年で、奥さんの麻美さんに「駄菓子屋の女将」として入ってもらうようお願いしました。
いざ二人で切り盛りすると仕事スペースもぎゅうぎゅうに。子供たちにも浸透し繁盛する一方で、買い物したくても入れないという事態も。ゲームしたい、話したい、そこに「居たいのに居られない」ギュウギュウなお店になってしまいました。

旧店舗の様子

引っ越し先は高嶺ならぬ高値の花

澤幡 それで引っ越し先を探し始めた?

中村 以前から目の前によさそうな物件があるのは知っていて目をつけていました。駄菓子屋をオープンして2年後くらいから引っ越しを考えはじめて。僕は商店街の中央に、女将は「SNSでいくら情報を出しても、スマホを持たない子供たちが前のお店に来て、なくなってたらショックでしょ?子供たちが、前のお店に来たらすぐわかる場所に」と、意見は分かれていました。

澤幡 オーナーと店長で意見が分かれてしまったと。それで結局、商店街の中央では借りられなかった?

中村 というより、家賃以外にも借りにくい理由があることが分かりました。一階部分は空き家になっていても、2階に大家さんが住んでいると、借りるのもなかなか難しくて。それでも、折にふれて商店街仲間に聞いたり、地元の知り合いに聞いてみて、柳沢の町じゅうで空き家を探しました。

澤幡 新しいお店は道路からセットバックした、ガラス張りの建物。一見駄菓子屋とは思えない、おしゃれな店になりましたね。

中村 えぇ、カフェですか?って、若い人も入ってくるんですよ(笑)

澤幡 目の前にお店を構えたということは、オーナーより女将の意見が通ったという結果に…(笑)借りられるようになったのはどんな経緯ですか?

中村 この物件の大家さんに偶然会えたんです。ちょうど女将が大家さんとは知らずに挨拶して…というのも、駄菓子屋の仕入れやイベント準備で、いつも勝手に物件の前に車を停めさせてもらったりしていたのですが、建物の前を掃除する男性が来ていて「すみません~。5分だけ!荷物運んだら動かしますね」と挨拶したら「シャッターの落書きとか、イタズラがあったら連絡くださいね」とその方の連絡先をもらったんです。あとで分かったのですが、その方が大家さんだったという。

澤幡 その出会いはラッキーでしたね

中村 でもすぐに借りられたわけではなくて。女将が勇気を出して「いつかは借りたい」と伝えると「実は、知り合いの業者さんから聞いていた」と言われて驚きました。誰かが援護射撃をしてくれていたんですよ。3年間地道にやっていたから少しは信頼してもらえているんだなと嬉しかったですね。
しかも物件は年内に空くと教えてもらえて、一気に実現に向けて夢が膨らみました。その時は名刺交換して終わったのですが、すぐに商店街仲間や知り合いに情報収集しました。大家さんは市外に住んでいて、物件は倉庫として使われていることや、以前は塾で家賃は15万円ほどだったと。

澤幡 まさに「高値」の花、ですね。

中村 駄菓子屋ではさすがに無理ですが、デザインの仕事もここでやっていますから、支払える金額のボーダーラインは最初から決めていました。

澤幡 その後、すぐに内覧や家賃交渉に入れた?

中村 駄菓子屋は日曜日が定休日で、お向かいの物件の人と出会うチャンスはなかなかありませんでした。僕たちも年内に引っ越せたらと思っていたし。ところが、ある日突然、お向かいさんが荷物を運び出していて。その時に初めて駄菓子屋にラムネを飲みに来てくれました。そこで初めてお互いのことを話せました。当時は倉庫として使っていたことや、「契約は今日が最後」ということを聞き、「これを逃したら他はない」と女将がすぐに不動産屋さんに連絡しました。すると「大家さんからも聞いてますよ~」とすぐに内覧させてもらって「現状のままでいいから、もう少しだけ家賃を下げてもらえたら借りたい」とお願いしてみました。

横丁のようなつながりが「信頼」に

澤幡 それでも月15万円って、駄菓子屋で稼げる金額じゃないですよね。しかも大家さん側にも、家賃としてのボーダーラインがあるじゃないですか。どうやって納得してもらったんですか?

中村 最初のお店の家賃を聞かれたり、さらに保証金も下げてくれて。不動産屋さんもすごく頑張ってくれたんです。

澤幡 金額交渉を?

中村 僕らはすごく幸運で。金額もそうですが、駄菓子屋のこと、商店街への思いを話す機会がたまたま持てた。不動産屋さんと大家さん、駄菓子屋の三者が揃った時には「西東京市のために頑張ってください」とまで言ってもらえて……思いが伝わって嬉しいのと同時に、背中をグッと後押しされた気持ちになりました。

商売と「役割」

澤幡 「西東京市のために頑張って」と言ってくれる人もなかなかいないですよ。

中村 そういう言葉が出てくるってことは、大家さんや不動産屋さんもいろいろネットに転がっている情報をひろってくれたのかなと思います。それまで直接そういう話はしてないですし。でも、それも駄菓子や始めたばかりの3年前だったら無理だったことで、3年間きっちりやってきたから、こういうご縁になったのかなっていう気がしますね。
もとも駄菓子屋は自分の居場所として作りましたが、ふり返ってみると地域活性化という、自分の『役割』ができていった気がします。

澤幡 自分の役割が町を応援し、同時にヤギベを応援してくれている人の存在にも気づけた。実際借りるとなって、どう交渉を?

中村 僕らも「そこまでやってくれるなら、色々直さなくていいです」と、物件の基本的な部分や壊れている箇所は直してもらうけど、壁紙はうちでやりますとか、床や換気扇なども直さなくて良いから、と持ちつ持たれつな感じになり、コストもおさえられました。

澤幡 物件の価値というか単なる家賃ではない問題ですね。15万で貸せていた時期はあったけど、現状にそぐわないということを、借りる側からも話した。大家さんも理解してくれて趣旨に賛同してくれたこと。それは店舗とか物件持っている人は責任感でもあるので、すごい英断だったなと思いますね。わざわざ商店街に不動産やお店持っているのだったら、もっと活発化して、本当の商売人だったら盛り上がって結果としてまた家賃が上がればいいんですよね。

「これで良かったんだ」やってみて確かめる

中村 地域の人と力を合わせて新店舗をDIYし。塾の時に使っていたところ、はそのまま残してました。床材も内装用のフローリングだったのでそのまま残し、結果、靴を脱いであがる駄菓子屋、という親せきの家に遊びに行くような雰囲気になったんです。テーブルに座れない子は床でボードゲームや宿題をしたり、より多くの子どもが過ごせる場になりました。

地域の仲間とDIY

「どんな人か」顔が見える信用が後押しに

澤幡 中村さんはデザイナーという職業で、ぱっと見商店街に関係ない存在みたいな感じだけど、存在の意義を作って溶け込んだ。レアケースではないですか?

中村 昔の商売人って、地域に入る前から、道の掃除をしたり御用聞きにうかがったりして、街に溶け込む努力をしたそうですけど、今っていきなり店ができるじゃないですか。「お店開いたから、さぁお客さん来てよ」と。
デザインの仕事は裏にあるけど、「ちょっと役に立つこと」をしてあげることで、自分の敷居が下がる。「街にとってありがたい店ができた」みたいな、そういう昔ながらの心構えって、実は大切なんだろうな、って。

澤幡 結果論としてデザインは売らないけど、知ってもらうこと、出入りが気さく。そういう部分で駄菓子屋+デザインっていう形態は一つの成功例ですかね。

中村 サッカークラブのお母さんからTシャツのデザインをお願いされたり、商店街の人からもありますよ。
何もしない空き家を持ち続けていることが、大家さんにとって現状維持なのかマイナスなのかは人により違っています。物件や地域によっては、借りてくれるなら誰でも貸すよと言う大家さんは少ないと思います。
古臭くて大変かもしれないけど、地元の人たちにとって『どんな人か顔が見えて、信頼できる人かどうか』は大切なこと。安心につながるんです。僕らの場合は、駄菓子屋を構えて、地元の商店会に入って、商店街のことや色々な話をしたり、イベントの企画やチラシとかデザインでできることで協力し、少しずつ受け入れてもらったのかも。

澤幡 こうして地域の中に入った中村さんですが、実際に物件探しをしてみてどうでしたか?

中村 良い物件は表には出てないよってこと(笑)。そんなのは、すぐに誰かが借りてる。そうでないからこそ、町の中に生きていって初めて、自分の手に入っていったり、詳しい人につながることによって手に入っていくのかな、という気がします。

澤幡 地域のつながりを良い方向にもっていけるのがアキヤラボでありたいですね。「あ、○○さんのお知り合いなのね」とか、信頼が担保になる、それがアキヤラボの真骨頂でありたいです。

中村 以前アキヤラボで話題になりましたが、「空き家だと安く借りられるでしょ?」っていう感覚はありがち。でも、ほとんどの大家さんには「知らない人には貸したくない」っていう気持ちとか不安がある。素性を担保するものが何かっていうのがすごく大事ですね。

澤幡 お得に住みたい人も、何かしらの役割を持ってそこの家に住む覚悟がないとお得には住めない。相場を下げてでもその人に住んでもらいたいたいという理由がないと。そして法律などの専門分野を見られる人も間に入れば良いと。

中村 忘れちゃいけないのが、「空き家になっていても大家さんにとっては大事な財産」ということなんですよね。税法や人間関係など、面倒なことが多いからこそ「空き家を寝かすのではなく、思いのある人に貸して地域や経済に生かしてほしいですね。

移転・改装が済んだヤギサワベース

広くなった店内は常に子どもたちでいっぱい

駄菓子屋ヤギサワベース

営業時間
月・水〜土 14:00〜18:00
定休日
火・日・祝 不定休
住所
〒202-0015 東京都西東京市保谷町3-25-15 1F
電話番号
042-452-5905

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