Akiya Stories

「どんぐり」空き家から芽生える地域のつながり

「どんぐり」 富沢このみさん

西東京市は様々な市民活動が活発な地域で、シニアから子育て中の世代まで、その数は188にものぼります(※)。今回インタビューした富沢このみさんも、そのお一人。まちに暮らす人が学び合い自分のまちを住みやすくするために多世代・多様な人と繋がり、活動の支援をする市民団体「田無スマイル大学」を運営し、地域の人を招いて自宅で茶道のお茶会を催したり、様々な世代の人たちと活動しています。2019年10月、自宅に隣接する一戸建てを多世代交流・地域の居場所「どんぐり」として開きました。どんぐりから、どんな芽が生えるのか、アキヤラボメンバーの澤幡がお話を伺ってきました。
※2020年1月現在の市民協働推進センター「ゆめこらぼ」の登録団体数。

エリア
西武新宿線「田無」駅
業種・業態
多世代交流・地域の居場所

掲載日:2020.01.25

隣の家を場づくりの舞台に

澤幡 富沢さんが開いた「どんぐり」は、ご自宅の隣りの一戸建てですよね。自宅の隣が 空き家になって、それを手に入れられたというのは、タイミング的にもすごい。一体どう やって?

富沢 子どもの頃から「どんぐり」の隣の家で暮らしています。お隣さんだったご夫婦が、数年前にそれぞれ亡くなりまして。ご親族の方に、私からお話しをしていました。もちろん無理にとは言わなかったです。
ご近所さんとは、母の時代から今までも仲良くしていて、夕食のおかずをやりとりすることも。母もよく人を招き入れていて、自分の家なのかわからなくなる感覚もありました(笑)。そのおかげか、ご近所さんに「どんぐり」のことを伝えたときも「このみさんがやるなら」と、皆さん快諾してくれました。

「どんぐり」の外観

澤幡 駅から徒歩5分の閑静な住宅街ですが、下町のような関係が残っているんですね。

富沢 この辺りは若い人もいるけれど、高齢化も進んできてシーンとしているところもある。戦後は二軒長屋が建てられていて、子どもの声もしていました。当時のようにとは思わないけど、ちょっとオスマシしているから、くすぐりたいというか。孤食をしないでみんなで食べたり、演芸を楽しんだり勉強したり、子どもの声も聞こえる、そういう空気を作りたかったんです。
私は、2010年頃から田無スマイル大学という市民団体をつくり、学んだり考えたりする活動をしていますが、その仲間で気軽に集まり利用できる場所がほしかった。公民館や地区会館は予約で一杯だったり、飲食の制限があったり、ちょっと使いにくい部分があるでしょ?自宅で茶道のお茶会を開いたり、スマ大の企画会議でも、自宅に上がってもらっていたけど、服や荷物を2階に持って上がると2階が大変なことになる(笑)。それに、誰でもOKってわけにもいかなくて、自宅以外で場を持ちたいと思っていたんです。私は自治会の役員もしているのだけど、行政の「自治会を強くしていこう」という動きや、空き家問題に関心があったので、勉強しにも行っていました。
だからアキヤラボが立ち上がった当時、私も仲間に入れてほしかったのよ(笑)。

澤幡 そうなんですね、すみません(笑)。ぜひ!
アキヤラボにご相談いただいたのは、昨年初めて開催したシンポジウムより前でしたかね。空き家になった隣の家を「どげんとせんといかん」ということで……活動の場を作るにあたって、もともと近所で探していたのですか?

富沢 そうね、家の隣にというのは本当に偶然だけれども、あまり自分の家から遠くには考えていませんでした。遠いと管理が大変だし、何かあった時や草むしりなんかは億劫になるだろうし。無理しないで管理したい、というのはありましたね。

澤幡 ズバリ聞きますが、富沢さんは、NPOや企業でもない有志の市民団体ですよね。資金はどうしたんですか?

富沢 私は一人暮らしなので、ザっと大雑把に(笑)。日々の生活は暮らすにはなんとかなる。立地的にも、失敗しても売ればなんとかなると貯金で買っちゃったんです。
「どんぐり」で儲けようとは思っていないけど、公民館みたいに無料っていうのは違うと思っていて。光熱費や固定資産税分は有料にして管理費に回し、自分の負担にならないようにしました。

澤幡 買っちゃったって(笑)。誰しもができることではないですけど、空き家をお持ち の人なら運営管理の資金は、なんとかできそうですね。そもそも、お隣さんを購入するま でに、どういうやりとりがあったんですか?

富沢 ここを売る時はお話してくださいねとだけ話してありました。親族会議で2年くらい かかりましたが、そろそろかもというタイミングで連絡をいただき、アキヤラボの池田さ んに相談しました。
思わぬ繋がりで、若いご家族に2階に住んでもらうことになりました。草むしりと 雪かきをしてもらうのを入居の条件に(笑)。これは本当に助かります。 工事は、階段に扉をつけたり、台所を2階に作ったりしました。でも家賃が発生するので、 どんぐりの運営経費としてもありがたいですね。何より「誰かと一緒にやる」のが楽しみ です。

育った町にさざ波を起こしたい

富沢 私は団塊の世代の初期で、金融機関でサラリーマンもしたし、大学で教えたりもし てきました。母の介護を機に地元に戻ってきて、知人や色々な人から様子を聞くと、交流 が限定的な人が多いですね。自宅で一人チャチャッと食事するのはいいけど、喫茶店やお 店に一人で入れないとか。知らない人と出会って喋るのが苦手なんですよね。都心へ出て 習い事をしたりはするのに、地元では交流がなかったり。人と会ったりしたいのに、どう したらいいか分からないのかもしれない。

澤幡 ご自身が育った町だから近所のことがよく見える、実感として分かるんですね。人 はいるけど、地域での関係性は分断してしまっていると。

富沢 そう。孤食を防ぐ意味でも、ふらっと立ち寄れる場や機会を作ろうと思って「どん ぐり」を作りました。ここは駅から近いので、家の持主が施設に入ったりして空き家にな ると、新しい入居者がすぐ入ります。入るけれど、アパートも大家さんが遠方にいる物件 も多いし、自治会に入らないご家庭も多いです。何より子供を連れたお母さんが通う場所 がない。だからここを多世代交流・地域の居場所にしたいんです。
「どんぐり」を塾や習い事、子育てのママたちや、預かりの場に使ってもらったら、この 町にいない世代が来てくれる。高齢者が多いこの町ですぐできるのは、高齢の方向けの体 操やカフェですが、それに限定せず多世代が交流する場にしたいんです。お弁当を注文し て、食べながら落語を聞いたりして。スマホの使い方を教えたいって人もいるから、教室 みたいにしても良いし。

澤幡 「どんぐり」で様々な人と交わることで、これまでと違う人間関係や面白いことにも出会えるという面白さを、知ってもらいたいですね。オープンして間もないですが、現在どんな方が利用していますか?

富沢 自治会には無料で使ってもらっています。夏祭りの時も、ここで焼きそばをほぐしたりして。あとは、落語会などの高座とか、お子さん向けのコンピューター・プログラミング塾、スマートフォンの使い方講座など。プログラミングは、私も子どもたちと一緒に勉強しているんですよ(笑)

個人の信頼がつながりを広げる

富沢 ほかにもやりたい事はあるけど、誰でも彼でも貸せるってわけではないなぁとも感じています。利用目的や全体の費用感、実績や相性も大事ですね。
アキヤラボの皆さんにマッチングを依頼するなら、夕方の預かり保育などの専門家をお願いしたい。あと、子供たちの居場所にできたら。特に保育や子どものことは、場所を貸す私の信頼と、子どもを見る人の信頼や専門性が必要ですから。そこを繋げてもらいたいですね。
運営側としては「どんぐり盛り立て隊」みたいなものを作りたいです。何でも私一人でやっちゃうと良くないなぁと思って。どんぐりを応援してくれて、監視(笑)してくれる協議会みたいなもの。我を張って一人でやるより、誰かとやった方が良いと思ったわけです。いろいろ失敗もしてきたから。

澤幡 富沢さんの信頼関係やネットワークを起点にして、地域の人とここに来る人同士が交流してくれると良いですよね。アキヤラボにとっても、空き家を単に貸し借りするだけでなく、信頼関係が礎にある貸し借りや売買、そういう社会づくりにつながる機会を創り出したいと、思っています。

地域の方々が集まって健康マージャン

「空き家」なんだから、やってみたらどう?

富沢 やっぱり、誰だかわかる人に貸すとかっていうのは、大切だと思います。安心して渡せるというか。この家を譲ってもらった時も、「どんぐり」の部屋をお貸しする立場になっても、それは同じだなって思います。

澤幡 せっかくこういう場を作ったので、使ってもらいたい人は?

富沢 何かをちょっとやってみたいという人、ちょっと間借りして教室などを試行的にやってみたいという人もウェルカムです。住人の方には、何歳になってもいろんな人と遊ぼうよということを言いたいですね。

澤幡 もし空き家の大家さんに一声かけるとしたら?

富沢 「寝かしておくくらいだったら、やってみたらどう?」ですね。「空き家なんだから、せっかくだから面白く使いましょうよ。あなたの人生楽しく変わるかもしれない」って。
ドンガラさえあれば、内装だけ直せば足りるのでコストもそんなにはかからない。

澤幡 「ドンガラ」ってなんですか?(笑)

富沢 「ドンガラ」って建物のことよ。そう言わない(笑)? 建物と土地があれば、変えるのは内装だけでしょ? それと、どうせやるなら人の力を借りてやってみる。その方が面白いんじゃないかしら。
これまでの市民活動でも、やってみて修正しながら良くしていって、というのを何度もやってきました。失敗したって修正すればいいじゃないというのをスマ大で学びました。
3年後に破綻して失敗しちゃっているかもしれないけど(笑)、また変えればいいわけだし。

澤幡 富沢さんが一貫してブレないのは「やりたいことをやっている」ってことですね。

富沢 そうですね。「なんとかなる。まずやってみよう」です。私は10年後の82歳位まで、いろいろ持病はあるけど何かしら元気だろうから「10年楽しくできたらいいや」って。そういう感じですね。

澤幡 まさに幅広い世代に伝えたいメッセージですね。今日はありがとうございました。

落語を披露する富沢さん

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